瑞宝館によせて(高田健一著)

 館主の主張を明確にし、瑞宝館の展示説明を補完するものです。
 瑞宝館の見学者の内、希望者に贈呈しますが、ここに序文を紹介します。

 非売品。313頁

     序 文               館主  高田 健一 著

 私の父、高田富之はその生涯の大半を左翼としての政治活動に費やしました。
 祖父 良平もまた、衆議院議員を1期つとめた後、国粋主義的立場からの熱心
な院外活動をいたしました。この二人が命がけの政治活動に赴いたのは、軍国
日本が滅亡への坂をころげ落ちそして新生日本として復興の途に就きつつあっ
た、まさに激動の時代のことでした。
 良平は大東亜戦争の早期終結運動を展開し、そのため憲兵隊から不穏分子
として睨まれ麻布憲兵屯所に召喚されております。
 富之はその頃、危険思想の持ち主として人民戦線一斉検挙の際に逮捕され、
各地の拘置所をたらい回しにされております。
 親子でありながら、対極的な政治ポジションを取りつつも、二人ともそれぞれに、
時代の狂気に抗して闘ったのでした。

 私は富之と良平の生涯を辿ることによって日本の近代史というものを鳥瞰する
ことができるのではないか、それも身近な血のかよった歴史として提示し得るの
ではないだろうかと考えて、この資料館を建設し、かつ構成をしました。
 従って、これは単なる資料館ではなく、必然的に政治的主張を内蔵するものと
なっております。
 当然私自身の主観、すなわち歴史観、政治的主張などがそのまま反映されて
おりますので、その点を明確にしておくべきではないかと思い、この小冊子を現
した次第です。

 第一部では、私自身の文明観、歴史観を表明しつつ、論述、解説をいたしまし
た。同時に富之と良平の活動をそれぞれの著作を基に詳述いたしました。

 第二部では、戦後の左翼運動というものが、ごく普通の身近な人々の血のか
よった営みであったことを伝えたいと思い、富之と彼を取り巻く人間模様を、小
説形式の物語『すぎさりし日々の光芒』として表現いたしました。

 本書は、瑞宝館での陳列、構成を補完するものであります。

   2001年  秋         著者

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